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元編集者兼ライターで、現在はWebサイト制作・運用に携わるピーターが気になったあれこれや、日々感じたことについて。最近ちょっとだけまじめ。Twitter@PeterK723

【読書ノート 002】おとぎ話の幻想挿絵

おとぎ話の幻想挿絵

海野弘/解説・監修(パイ インターナショナル) 2011年9月11日発売

2021年2月6日読了

 

 

感想

・綺麗。癒される。うっとりする…。ただ画を眺めておとぎ話の世界に浸るも良し、しっかり解説を読んで作家や作品、それらが生まれた時代背景を学ぶも良し。

・私は購入当初、「なんだか疲れたな…」という時に、心の栄養補給のために、パラパラとページをめくって画だけを楽しんでいました。日によって、目が留まる作品が違って、それはそれでおもしろかったです。そのなかでもアラステアの作品に魅せられ、『マノン・レスコー』の解説を皮切りに全ての解説を読みました。

・挿絵文化――本書で言うところの「挿絵の黄金時代」は19世紀半ばから1930年頃までを指すそう。もちろん所説あり。その間に白黒からカラー印刷への転換、優秀な画家たちの輩出、日本文化への影響や、反対に東洋文化の影響を受けたと思われる表現など、注目すべきポイントが満載です。そのあたりが丁寧に解説されています。

・また、各作品ごとの解説を読むと「こんなところにこんなものが描かれている…!」なんて、画を見るときの新しい視点も手に入っておもしろいです。それまで美しいと感じていた画が、いきなり不気味に見えたりも…。

・「不気味」という言葉を使いましたが、この本は「おとぎ話」「幻想」「ファンタジー」という言葉に反して、退廃的であったりグロテスク、不気味と感じる作品の方が多く収録されているように思います。少女は可愛らしいのに、少女を取り囲む森はちょっぴり怖かったり…。解説で得た知識ですが、当時、挿絵が施されていた絵本の多くは、子どもだけのものではなく、大人の楽しみでもあったようです。

・おとぎ話やファンタジーというと、私はなんとなくヨーロッパのイメージが強かったのですが、本書にはエキゾチックな香り満載の『アラビアン・ナイト』の画も多く登場します。東洋風の作品に限らず、孔雀や宮殿、浮世絵を連想させる表現など、じっくり見ていくとアジア的なモチーフが散見されて驚きました。とても自然に溶け込み、怪しくて妖しいおとぎ話の世界を彩っています。

・表紙の装丁が豪華。鮮やかな赤の箔押しが美しすぎる。表紙の画はウォルター・クレインによる『赤ずきん』で、本文でも紹介されています。

・表紙だけでなく、中身(約270ページ)のデザインも素晴らしいです。画家や作品ごとに異なるあしらいが施されていて、その違いを見比べる楽しさもあると言っても過言ではないほど作り込まれています。B5サイズ、フルカラーで、基本的に1ページにつき1作品+解説という構成なので、どの作品も見ごたえがあります。

 

 

 

独断と偏見に満ちた、本書に登場する作家の紹介

・アーサー・ラッカム:

少女やお姫様の描き方、特に表情が可憐で魅力的。反対に、森の描写が不気味すぎて軽くホラー。この対比がとても鮮やか。本書の中で一番「おとぎ話」「幻想」という言葉から受けるイメージに近い作風だと感じた。

 

エドマンド・デュラック:

アラビアン・ナイト』を筆頭に、エキゾチックな世界観を描く名手。アジア圏の文化に惹かれていたんだろうなと感じる。アジア風の妖艶な美女やダイナミックな構図が見事。『人魚姫』や『雪の女王』など、洋風の作品を描く際の繊細な色使いもとても綺麗…。

 

・カイ・ニールセン:

小さな顔にひょろ長い四肢で描かれる人物たちが、 コケティッシュな雰囲気。ちょっぴりおかしくもあるのに、可愛くも上品にも見えるから不思議。時期によって絵のタッチが微妙に異なるものの、やっぱりどれもオシャレです。ニールセンの絵がプリントされたTシャツとかトートバックがあったら、私は間違いなく買う。

 

・ウォルター・クレイン:

作品からも見て取れるように、ウィリアム・モリスの影響を色濃く受けている作家。私はモリスの画が好きなこともあって、表紙の『赤ずきん』に引き寄せられたのかもしれない…(表紙買い)。森や花、額縁のように画を取り囲む装飾など、職人のような仕事ぶりが光ります。

 

・ハリー・クラーク:

とても優雅で、それでいて妖艶さや退廃的な雰囲気も感じさせる作風。中二病を患ったことがある人なら、絶対に惹かれるはず。私もそう。どんどん不気味さグロテスクさが増していくので「おとぎ話とは…?」という気持ちにさせられる。描かれる人物たちの目力が強すぎてドキッとします。ちょっと心臓に悪い。

 

・アラステア:

本書に登場する作家のなかの最推し。「おとぎ話とは…?」という疑問なんてどうでもよくなるくらい、表情の色っぽさ、色使いの妖しさ、構図の大胆さ、全てに惹かれました。なぞの多い作家で、情報や書籍が少ないそう。「アラステアの作品を収録していること」を評価するレビューが目立ちました。アラステアの画がきっかけで『マノン・レスコー』が読みたくなり、ポチりました。何度見てもうっとりしてしまう、耽美な雰囲気が漂っています…(余韻)

 

・ジョン・オースティン:

ニールセンを連想させる、細い線で描かれた小さな顔や細長い手足が特徴的。でも、パキッとした色使いの画を見ると、すごくモダンというか現代のイラストっぽさを感じます。キュビズム風の作品を見ると、別人かと思うようなシュールさが。

 

 

総評

・現実逃避に最適

・見応えも読み応えも抜群

・何度見ても引き込まれ、癒されます 

 

 

 

予告

・まもなく「ブランディングの化学」を読み終えます