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元編集者兼ライターで、現在はWebサイト制作・運用に携わるピーターが気になったあれこれや、日々感じたことについて。最近ちょっとだけまじめ。Twitter@PeterK723

◆新宿の殺人未遂事件を知って、思い出したこと◆

数日前に起きた新宿での殺人未遂事件

21歳の女性が交際相手の浮気を疑い、刺し殺そうとしたものだ。

男性の職業は歌舞伎町のホストだと言われている。

 

このニュースをTwitterで知った時、

私はあることを思い出した。

思い出したというよりは、気付いたというか。

 

 

 

 

彼女は、私だったかもしれない——と。

 

 

 

 

20代前半の頃、私にはアッキーという年上の彼氏が居た。

お酒と映画が好きで、料理が上手で、かっこつけたがり。

見た目はタイプではなかったけど、それでも大好きだった。

 

特に、アッキーから言われた

“次の誕生日は一緒にハワイでお祝いしよう”

という言葉が嬉しくて、今でもよく覚えている。

“ハワちょ”という名目で、二人で毎月一定額を貯金していた。

 


しかし、彼が都内に引っ越して転職をしてから、

私たちは少しずつズレていった。

 

 

引っ越す前は昼間の仕事がしたいと言っていたのに、

アッキーは池袋のバーで働き始めた。

会社員の私とは生活時間が合わなくなった。

 

合鍵を使ってアッキーの家に入り、

テレビや映画を見ながら帰りを待ち、

私が寝た頃に彼が帰宅して、

私が目覚めると彼は寝ている…そんな日々が続いた。

 

“常連のお客さんにご馳走になった”

“営業後に従業員と飲みに行った”

そんな言葉が増えるのに比例して、朝方の帰宅が増えた。

 


それでも、ちゃんと仕事が決まったんだし、
本人ががんばっているならそれでいい。

 

 

あの日も、そんなことを考えながらアッキーの帰りを待っていた。

散らかった彼の部屋を片付けながら。

 


灰皿を洗おうとした時、

机の上にシワだらけの紙があることに気付いた。

そこには「給与明細」と書かれている。

 

 


アッキーのお給料っていくらだろ?

 

 


そんな好奇心からそっと手を伸ばし、

給料の額をコッソリ見てみようと

紙に書かれた文字を目で追っていった。

 

 

CLUB 〇〇〇〇

レン

時給 指名 同伴 …

 

 

そんな文字が並んでいた。

 

「指名」や「同伴」という言葉から

私はキャバクラを連想し、アッキーじゃなくて、

バーにきたキャバ嬢さんが捨てたのだと思った。

 

そして、記されていた店名と

「レン」という名前でグーグル検索をかけてみた。

 

 

 

すると、そこには黒いスーツに身を包んだアッキーの写真が

「レン」という名前で掲載されていた。

 

 


全く思いがけなくて、私はものすごく動揺した。

頭が混乱して、ぶわっと涙が込み上げてくる。

 


ホスト…? なんで??

 

じゃあ始発で帰ってきた日は、あの泥酔していた日は、

誰と居た…?

 


私はアッキーに

「話したいことがあるから早く帰ってきて」

とLINEして、携帯の電源を切って帰りを待った。

 

 

 

 

アッキーは、“バーで働くことになった”と嘘をつきながら、

3ヵ月も前からホストをやっていた。

 

 

ホストを選んだ理由は、

なんとかして“ハワちょ”を貯めたかったから——と。

私のためだと言われた。

 


嘘をつかれていた上に、彼氏がホスト。

でも、アッキーはアッキーだし、彼が好きだった。

 

 

迷いや不安はたくさんあったけれど、

私たちは関係を続けることにした。

しかし、そこから本格的に私とアッキーはズレていく。

 

 

アッキーがデートに遅刻することが増え、

何度も家まで迎えにいった。

 

“お客さんからだ”と言って目の前で電話に出たり、

ずっと携帯をいじるようになった。

 

バレたことで気が楽になったのか、

店での出来事やお客さんの愚痴を頻繁に話すようになった。

女性を見下すような発言も増えた。

 

いつしか、どちらからともなく

ハワイ旅行もハワちょのことも、口にしなくなった。

 

だんだん、心が苦しくなっていった。

 

アッキーが何を考えているのか、
ぜんぜん分からなくなった。

 

それでも、楽しかったことが忘れられなくて、

“今は我慢だ”なんて、必死に思いこもうとした。

 

 

そんな私がアッキーとの関係を断ったのは、

それまで抱いたことのなかった

“ある感情”が芽生えたから。

 

 

アッキーは何度か、デート中に

“呼ばれたからちょっと行ってくる”と言って、

私を置いてきぼりにしたことがあった。

 

その理由となったお客さんはすべて同じ人で、

アッキーの“太客”だった。

どんな人なのか聞いてみると、彼はこう言った。

 


  彼女は重い病気で、余命が宣告されている。

  だから今は仕事もせずに思いっきり遊んでいて、

  ホストに来たのもそういう理由から。

  短い間になるだろうけど、できる限りのことはしてあげたい。

 

 

 

そんなの嘘だよ

 

 

 

私の口から出たのは、嫉妬や憎しみにまみれた言葉だった。
「その女、絶対嘘ついてるから」と。
でも、アッキーは全く動じなかった。

 


二人には、私が全く知らない、知りえない信頼関係がある——

 


それを目の当たりにさせられた時、

私は初めて、冗談でも誇張でもなく、

心から純粋な気持ちでこう思った。

 

 

 

早く死ねばいいのに

 

 

 

人の死を、願うようになってしまった。

 

 

自分で自分が怖くなった。

これ以上アッキーといたら私は大きな間違いをしてしまう——

そう確信し、やっとで別れる決意ができた。

 


最後の日はアッキーに会わず、

彼の家のドアポストに鍵だけを落として帰った。

帰り道でLINEをブロックし、着信拒否にもした。

アッキーがどう思ったかは知らない。

 

 

こうして私たちは終わった。

 

 

もしもあの時、自分の中に芽生えた殺意に疑問を抱かず、

当然のもののように受け入れてしまっていたら——

 

豊島区のマンションで血だらけになっていたのは、

私だったかもしれない。

 

 

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